水素で照らすねぶたの灯り ~当社開発の水素発電機で技術協力~
2026年7月26日に青森市油川地区で開催された「油川ねぶた祭り」、そして8月2日から7日に開催された「青森ねぶた祭」において、当社の水素発電機を活用したねぶたが運行されました。
今回、当社はねぶた祭りへの技術協力を初めて実施。その取り組みとして、油川幼稚園ねぶた愛好会が運行する「隈取十八番 坂田金時」に、当社の燃料電池システムを搭載しました。
水素と酸素の化学反応によって生み出された電力でねぶたを点灯し、環境負荷の少ないエネルギーで祭りの夜を照らしました。
ねぶたの灯りを支えたのは、当社が開発に取り組んできた水素技術です。 そこには、「地域の伝統行事を支えたい」という思いと、「絶対に灯りを消してはいけない」という当社の技術担当者たちの強い責任感がありました。
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ねぶたの灯りを水素でともしたい
今回の取り組みは、地域活性化を目的としたボランティア活動を行うトヨタ自動車株式会社の有志団体「幹の会」からお声がけをいただいたことをきっかけにスタートしました。幹の会では、地域文化である「ねぶた」を通じて水素の可能性を発信する構想を進めており、水素技術の実用化に取り組む当社へ技術協力の相談があったことから参画することとなりました。
今回のプロジェクトで中心となって取り組んだ先行開発・研究部 基幹・電動先行開発室の浦塚崇史さんは、最初に相談を受けたときのことをこう振り返ります。
「純粋に面白そうだと思いました。ねぶた祭りのような地域の伝統行事で燃料電池システムを活用する発想はありませんでした。固定されたインフラのない場所へ水素を持ち込み活用すること、そして『身近なところから水素エネルギーを知ってもらう』という私たちの開発テーマにも重なる取り組みだと感じました。振り返ってみると、このような地域の伝統行事に関わる機会をいただけたことは、とてもありがたかったと思います」
ねぶたを支えた水素発電機
今回搭載したシステムは、幅700mm、奥行700mm、高さ590mm、重量75kgのコンパクトな設計で、最大出力は3kW。4.4kgの水素タンク4本を使用することで約4時間の連続発電が可能です。

従来のエンジン式発電機と比べ、約50%の軽量化を実現しています。また、発電時のCO₂排出量はゼロで、排出物も水のみであるため、クリーンな発電が可能であることに加え、騒音や振動が少ないことも大きな特長です。
「絶対に灯りを消せない」
「伝統あるねぶた祭に、自社で開発した水素発電機を搭載できることに大きな喜びを感じる一方で、大きな責任も感じていました。」と浦塚さんは話します。
今回搭載された「隈取十八番 坂田金時」は、地域で長年親しまれている油川幼稚園ねぶた愛好会が運行するねぶたです。同会は今年50周年という節目を迎えており、祭りにかける地域の皆さんの思いも大きなものでした。
もし も運行中に発電トラブルが発生し、ねぶたの照明が消えてしまったらどうなるか。
地域の皆さんが楽しみにしている祭りだからこそ、担当者たちは「絶対に灯りを消せない」という責任感と覚悟をもって準備に取り組みました。
しかし、本番までの道のりは平坦なものではありませんでした。
初めは油川幼稚園ねぶた愛好会の皆さんには愛三工業という会社は知られておらず、ゼロから信頼関係を築くところからのスタート。必要な電力や運用方法も手探りの状態だったため、現地の皆さんと月に一度の打ち合わせを重ねながら、一つひとつ仕様を固めていきました。
運行中の振動やねぶた台の傾きの影響を受けながら安定して発電できるのか。真夏の高温環境で問題なく稼働するのか。ねぶた運行というこれまでにない使用環境に対応するため、祭り当日の状況を想定しながら、検証を重ねる必要がありました。

「私たちは普段、お客様から決められた仕様を受け取って開発することが多いのですが、今回は必要な電力や運用方法を自分たちで確認しながら進めていく場面が多くありました。現地の皆さんと対話を重ねながら、一つずつ形にしていったことが印象に残っています」
愛知県から青森県の現地へ何度も足を運び、直接対話を重ねる中で少しずつ関係を築きながら、本番へ向けた準備を進めていきました。

さらに苦労したのは、水素の調達と輸送です。燃料電池を長時間運転するためには、多くの水素を効率よく運べる高圧容器が必要となります。しかし、今回必要とする条件で水素を調達できる拠点は限られており、調達先の選定から輸送方法の検討まで、入念な準備が必要でした。また、水素を充填した容器を現地で安全に保管・使用するため、関係各所と保管場所や運用方法について何度も協議を重ねました。
そして迎えた運行当日
水素発電機が無事に稼働するのか。運行中にトラブルは起きないか。担当メンバーは大きな緊張感を抱えながら本番を迎えました。浦塚さんは当時を思い出して次のように話します。
「正直なところ、不安の方が大きかったです。発電が止まったらどうしよう、トラブルが起きたらどうしようと考えていました」
点灯の瞬間、会場ではカウントダウンが行われ、関係者が見守る中でねぶたに明かりがともされました。ねぶたは多くの観客に見守られながら街を進み、水素発電機は約2時間にわたり安定して電力を供給し続けました。
運行中、特に注意を払ったのが、発電によって生成される水の管理です。水が内部にたまると燃料の供給を妨げ、部分的な電圧低下や燃料電池の劣化につながる可能性があるため、担当者は発電状態を常に監視。状況を的確に見極めながら対応し、最後まで安定した発電を維持しました。
「運行中もずっと状態を確認していましたが、最後まで灯りを灯しきることができて本当にほっとしました。今回のきっかけをつくり、準備段階からともに取り組んでくださった幹の会の皆さん、そして油川幼稚園ねぶた愛好会の皆さんには、感謝の気持ちでいっぱいです」
と浦塚さんは安堵の表情を浮かべました。

地域から寄せられた期待の声
当日は、水素で発電するねぶたに多くの来場者の注目が集まりました。
会場では、
「排気ガスの臭いがしないね」
「発電機が動いているのに静かで驚いた」
「こんなところでも水素が使えるんだ」
といった声が聞かれました。
また、水素発電機本体の見学に訪れる企業関係者や一般来場者の姿も多く見られました。
特に企業関係者からは、「工事現場など電源の確保が難しい場所でも活用できそう」という声が寄せられたほか、地元高校の先生からは「ぜひ校外学習で見学したい」との声も聞かれ、水素発電機のさまざまな用途への可能性や、水素エネルギーへの関心の広がりがうかがえました。
ねぶたという伝統文化と最先端の水素技術の組み合わせは、多くの人に水素エネルギーをより身近に感じてもらうとともに、その活用の幅広さや可能性を伝える機会となりました。
祭りから得た新たな学び
この取り組みは、水素エネルギーの可能性を発信するだけでなく、当社にとっても貴重な実証の機会となりました。
また、多くの人が集まる祭りという実環境において、燃料電池システムを安全かつ安定して運用できたことで、新たな活用可能性を確認するとともに、実験室や評価設備では得ることのできない知見を蓄積することができました。
当社は、これらの成果を今後の燃料電池システムの改良や技術開発に活かし、水素技術による新たな価値創出に挑戦してまいります。

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