プロジェクトストーリー 愛三工業株式会社

トヨタ自動車の燃料電池車「MIRAI」に搭載された“水素インジェクタ”が生まれるまで
MIRAI
2013年、秋。東京モーターショーで華々しく発表されたトヨタ自動車の『MIRAI』は、世界初の量産型FCVとして自動車業界に新風を巻き起こした。MIRAIは、地球上に無限に存在する水素を燃料とし、排出するのは水だけという、まさに未来のクルマである。石油などの化石燃料を使わないため、枯渇や環境への影響を考える必要もない。実は、このMIRAIにもAisanのコア技術が活かされている。それは、水素インジェクタという製品だ。水素インジェクタは、燃料電池に供給される水素の圧力・流量を制御し、高効率発電に寄与する。その水素インジェクタの開発プロジェクトを紹介しよう。

背景

トヨタ自動車からAisanに声がかかったのには、理由があった。それは、MIRAIのプロジェクトが立ち上がる数年前、ガソリン車のインジェクタを改良して、CNG(圧縮天然ガス)車用の新型インジェクタを成功させていた。その実績をもとに、新たに水素インジェクタのプロジェクトチームが結成されたのだ。

永田定嗣
(設計担当)
鈴木孝吉
(試作担当)
三宅秀明
(量産担当)
構想段階

構想段階

液体から気体に。たったそれだけで、過去の経験だけでは歯が立たない。

MIRAI には従来のエンジンは搭載されておらず、H2+1/2O2→H2O+電気エネルギーという化学式からも分かる通り、水素と酸素を化学反応させて発電し、モータを駆動させて走る。水素は気体であり、ガソリンと比べて漏れやすく、CNGと比べても70MPaと圧力が高い。そのため、水素漏れを防止するシール性の向上のほか、排出する水によって腐食させない耐腐食性も必要になる。コストを抑えつつ、これらを実現するにはどうすれば良いのか?MIRAIのプロジェクトは、構想段階から暗礁に乗り上げつつあった。設計や生産技術、試作といった各分野のスペシャリストたちがミーティングを重ね、これまで1本だった噴射装置を3本にする、という奇想天外なアイデアを思いついたのだ。

試作段階

試作段階

製品はおろか、治具まで。すべてがゼロからのスタート。

このアイデアをもとに図面を描き、試作段階に入ってからも問題は山積みだった。水素インジェクタはAisanの歴史上初の製品であり、試作のための治具を製造することから始めなければならない。社内で“匠”と一目置かれる試作技術者をもってしても、そう簡単ではない。ときには、加工専門の協力会社に加工を依頼しながら、少しずつ作り上げていった。その一方で、各部門の技術者たちも議論を繰り返し、深夜まで白熱したこともあった。すべては、ベストな形状にたどり着くために。ガソリン車やCNG車で培った知見を活かしながら、水素インジェクタは徐々に形になっていった。プロジェクトチーム全員が、その手応えを感じつつあった。

量産段階

量産段階

1回の試験にも耐えられなかった製品が、2ヶ月でものになってきた。

しかし、水素の代わりにヘリウムガスを使ったテストでは、思うような成果が得られない。シール性が向上せず、部品の間からガスが外へ漏れてしまう。さらには、プロジェクトが進行している最中にも、新たなスペックが追加されたり、取り付けやすい形状に変更されるなど、仕様自体も変わっていく。そんな状況の中でもプロジェクトチームは仕様変更の意図を聞き、逆に20点もの試作を提案するなど、決して諦めはしなかった。そして数カ月後、ついにMIRAIの水素インジェクタは完成した。しかし、このプロジェクトはまだ終わってはいない。さらなる量産やコスト低減を実現するためには、誰が生産しても高品質なモノづくりができる設備や仕組みを作らなくてはならないから。未来のクルマに関わったという矜持を胸に、Aisanとプロジェクトチームの挑戦は、これからも続いていく。

pagetop